ITProの困った記事

まず、この 【記者の眼】ああ,電波が足りない という記事をお読みいただきたい。
ここで言っていることを乱暴にたとえれば、「今の時代、ADSLとかBフレッツとかあるんだから、専用線なんて高いばかりのものはやめてしまいましょう。ブロードバンド万歳」というようなものだ。技術の一面ばかり見ており、一種の煽動記事といわざるをえない。

まず問題なのは、「同じ周波数帯を同時に使って複数の伝送路を確保する技術も利用可能」の部分。これはおそらくMIMOを指しているのだろう。(まさかマイクロ波固定回線で偏波を分けて使用している話ではあるまい) この技術は基本的に一対の局の間で複数の送信・受信アンテナを使用し伝送容量を拡大する技術であり、他の無線局の干渉排除が主目的ではない。
アダプティブアレーについても、多元接続時される基地局のアンテナが主なアプリケーションであることを考えると、ここで引き合いに出すのは的外れである。

いまや大量に普及した無線LANではあるものの、PHS基地局のように屋外に面的に配備し大量のユーザーがぶら下がるような使用方法には耐えるようにはできていない。
これを範と見て、「一軒家が密集した地域を区画整理し,ゆったりとしたマンションに建て直し,しかも緑を呼び込む,といったことが電波配分でもできる」と書くのは暴言だろう。

「米国のFM放送などを聴くと,受信帯域の端から端までびっしり何100という放送局が詰まっている。」のくだりも誇張が過ぎる。20MHz弱しかないはずのこの帯域で数百の局が聞こえるわけないのだ。(聞こえるとはいっていない、というのであれば、日本だって0.1MHzステップで割り当てがあるから、全国で見れば140近くの周波数があることになる)
ここで問題にするのなら、県域民放局を各県1局とした過去の経緯を問題にすべきであって、電波の利用効率を言うのはおかしい。

周波数帯の利用の現状については、総務省調査を行っている。これを見ると、将来的にはGHz帯でまとまった帯域を空ける方針でいることがわかる。周波数移行は5〜10年のスパンで行われるため外からはなかなか見えにくいが、決して手をこまねいているわけではないと思う。

地上波デジタルやソフトバンク騒動で、無線のいわゆる「バンドプラン」について一般に認識されてきたと思う。しかし、無線屋は一種の装置産業の側面もあるというのを無視してこのような記事を書かれるのは非常に良くないと思うのだった。

まあ、記事の下の「皆様の評価」を読んで、やっぱりわかっている人はわかっているのだとちょっと安心したのですが。